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現在、企業や家庭内でネットワークを構築する方法として、有線LANあるいは無線LANが幅広く普及している。前者は、LANケーブルを使って安定した高速なデータ伝送を実現できるものの、ケーブルを引き回すのに手間がかかり、ロケーションによってはケーブルを敷設できないこともある。また後者は、ケーブルの引き回しなどは不要だが、アクセスポイントなどの設定に多少時間が掛かり、電波の届かないところでは利用できないという弱点があった。最近になり、こうした従来のLAN構築法の弱点を補う“3つめのLAN”として、高速電力線通信(PLC:Power Line Communication)が注目を集めている。
PLCは、簡単にいうと電気を供給している電力線を利用して通信を行う技術だ。国内では50Hzもしくは60Hzの交流が用いられているが、これに信号を乗せることで、データ通信を実現するという仕組み。詳しい原理については次回に譲るが、PLCによるLANの構築イメージは図1のようになる。
図1●PLC導入の基本構成。配電盤から内側の電力線を利用し、PLCモデムを配置。インターネット接続点となるADSLモデム/ルータをマスターPLCモデムにつなげ、子機となるPLCモデムを配置すればLANが組める
PLCの最大のメリットは、何といっても導入時の利便性にある。オフィスでも家庭でも、電気の配線やコンセントは身近に設置されているもの。これらがそのまま通信の経路や窓口になるため、新たにケーブルを配線する必要がなく、手軽にネットワークを構築できる。
また、無線LANの設定は、Wi-Fi Protected Setup(WPS)などセットアップを支援するための仕様はできているものの、初心者にとっては決して簡単ではなかった。これに対し、PLCの設定はコンセントに挿すだけで完了する。このシンプルさは、無線LANの利便性を上回るといっていい。電波が届きにくい壁の間やフロアの2階にPCを持っていき、いつ、どこでもネットワークを構築できる。イーサネットの配線がない古いビルなどでネットワークを手軽に導入できる点も売りの1つだ。
実は、PLCの技術は最近になって考えられたものではない。国内でも一部ではかなり以前から利用されてきた。例えば、電力会社の配電自動システムや遠隔検針システムでは、通信用の信号周波数に10KHz~450KHzの長波帯(KHz帯)を利用したPLC技術が用いられていた。これは、電波法の事情から使用できる周波数帯が限られ、低速での利用が主であったため「低速PLC」と呼ばれていた。
すでに海外では、欧州、アジア、南米などで、電力会社がアクセスラインで高速通信が可能なPLCを導入している。2003年後半にはスペインなどでも、IP電話を含むインターネットサービス事業が始まった。しかし、国内においてはさまざまな議論があり、長らく低速PLC技術のみが利用されていた。ところが、2006年後半になって、ターニングポイントが訪れた。
2006年10月に改正総務省令が施行され、屋内での使用という条件付きで高速PLCを利用できるようになったのである。高速PLCでは、通信用の信号周波数として2MHz~30MHzの短波帯を利用することが可能だ(規制緩和までの動き、短波帯を使用する上での議論や問題点については別途コラムで解説する予定だ)。
この規制緩和により、最大200Mbpsまでの通信が可能な高速PLC(米国では、この高速PLCを「BPL:Broadband over Power Line」と呼んでいる)が登場。高速PLCでは、実際の実効速度も70Mbpsぐらいは確保できるという。このくらいのパフォーマンスを引き出せるのであれば、現状の無線LAN機器を補完することが十分に可能だ。
現在、コンシューマー向けではパナソニックコミュニケーションズ(松下電器)など数社の高速PLC製品が市場に出回っている。これらは親機と子機のセットでも2万円前後で販売されており、比較的手に入れやすい価格帯になってきたようだ。まだ市場には出ていないプロトタイプのものも、展示会において十数社がデモを実施している状況だ。
マスターPLCアダプタと子機のターミナルアダプタがセットになった「BL-PA100KTスタートパック」(パナソニックコミュニケーションズ)。HD-PLD方式を採用し、最高190Mbps(物理層)で通信が可能。価格は2万円前後
またエンタープライズ向けでも、大手電機メーカーが本格参入を表明し、実際に動き始めている(表1)。従来の有線/無線LANが利用できないケースでは、この「第3のLAN」を選択肢として検討することも視野に入ってきた。
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